理工学府長インタビュー ~男女共同参画を語る~

とき
平成26年4月7日(月)
場所
桐生キャンパス「まゆだまひろば」
インタビュー
篠塚理工学府長
土橋副学長
花泉副理工学府長
インタビュアー
末松男女共同参画推進室長
工藤室員・長安コーディネーター

末松:本日はどうもありがとうございます。男女共同参画推進室の桐生「まゆだま広場」が初めてできましたので,お披露目会ということで,理工学府のこれからについ て篠塚理工学府長にお尋ねしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

篠塚:こちらこそよろしくお願いいたします。

末松:ではまず,理工学府の女子学生の現状についてお話をお願いします。

学部の改組がきっかけになり、女子学生が着実に増えてきた

篠塚:まず資料をまとめてきました。平成26年度の入学者を集計してみると,男女比では,女性が20.15%です。これは全体を通しての割合ですので,多い学科もあれば少ない学科もあります。多い学科でいうと,これまでも女性が多かった化学・生物化学科で、やや少ないところでは環境創生理工学科、昔の建設系ですね。増えつつあるのが機械知能システム理工学科です。私の資料ですと,平成8年度には女性比率が15.34%,平成8年度から18年度の間はだいたい多くて15%少なくて11%でずっと推移しています。19年度にこの状況が変わって,18%までに上がった。平成19年度というのは何があった年かというと,改組をした年です。この時にそれまで生物化学工学科という学科があったのを,そのうちの生物系と、応用化学科・材料工学科という化学系とを一緒にして応用化学・生物化学科という、非常に定員規模の大きな新しい学科をつくりましたので,その影響があったのだと思います。平成19年度以降はだいたい少なくて15%多くて18%ぐらいで推移していたのが,平成25年度から20%という更に上の段階に乗りました。この平成25年度という年も工学部から理工学部へと改組をした年となります。どうも,改組に応じてというよりも改組の時をきっかけにしてぐっと増えてきているという感じですね。

末松:一度改組すると右肩上がりで減らずに伸びていくのでしょうか。

篠塚:そうですね。改組の時に一つ上の状態に上がるといった感じですね。

末松:ということは改組の時に、やはり広報を積極的に行ったということでしょうか。

篠塚:それも効いていると思います。

末松:特に,女子学生向けに行ったということなのでしょうか?

篠塚:一部は、女子学生向けに積極的にやっています。女子高校に積極的に宣伝活動を行うようになり,担当者の努力の甲斐あって,これだけ増えてきております。 末松:女子学生は入学してみてどんな感想を残していますか?女子が増えているということで、喜んでいるとは思いますが。

篠塚:女子にしてみればもっと増えてもよいかと思っていると思います。あとは、今まで伝統的に男性が多かったので,女子トイレが少ないという問題がございます。化学・生物化学科はかなり以前に女性が多いということで女子トイレを整備しましたが,先ほど申しましたように,最近増えてきている機械知能システム理工学科では,現在、女子トイレの増設をしようとしています。思わぬところですが,そういうところもきちっとしておかないと思っております。

末松:特に,そのほかの面で,女子学生だからといって特別に対応することはありますか?

篠塚:いいえ,男性と同じようにビシビシと指導しております。

女子学生はとても優秀、男子学生とまるっきり変わらない

末松:研究の時間などは、かなり遅くなると思いますがいかがでしょうか。

篠塚: 4年生以上になると確かに研究室に入って研究を始める訳ですが,男子学生とまるっきり変わらないですね。ただ,町の治安が桐生は良いから,そういう意味では安心していられるのですが。

末松:今後も女子学生の増加を視野に入れて積極的に広報していくのでしょうか。

篠塚:そうですね,女子学生というよりは優秀な学生さんにたくさん来ていただきたいと考えております。その結果が女子学生の増加であれば,それでよろしいですし。話題になっているリケジョのようなこともありますし。それに18歳人口は年々減っているわけですから,その中で優秀な学生さんということで,女性が理系に行きたいと思っていたけれど,というのであれば,積極的に来ていただければと思います。

末松:そういう風に女子学生が増えてきた影響で,男子学生には何か影響はございますか。たとえば社会情報学部だと,五割ずつぐらいなので,非常に良い具合です。理工学部ですと,1年生しか教えたことはないのですが,本当に男子学生ばかりで,コミュニケーションの楽しさなどからしても,やはり両方いたほうがうまくということもあるので,やはり男子学生にとっても,女子学生がいたほうが良いこともあるのではないかと思います。そのあたりはあまり感じられないですか?

篠塚:気が付かないだけかもしれないですが,ただ,学生がお互い同士立ち話をしているのがはたで聞こえて来ると,女子学生の存在が気になっているのは確かなようです。

末松:いい刺激になってお互い勉強に身が入ると良いかなと思うのですが。

篠塚:クラブとかサークルに,もっと女子を積極的にいれようぜという話をしているのはよく聞きます。

理工学部の女性教員を増やす方策として

末松:そうですか。わかりました。それでは今度は教える側の研究者について伺いたいと思いますが,現状ではどのような状況でしょうか?

篠塚:実は女性研究者(教員)は,現在のところ4人しかおりません。

末松:何人中でしょうか。

篠塚:正確には教員数は270人ぐらいであり,そこからうちの女性比率は2%であると言われています。今年度は,化学・生物化学科に新たに黒沢先生が入ってくださり,全部で5人でしょうか。それとで,女性研究者を計画的に徐々に増やしていくための男女共同参画事業の中では,理工学部では2名増やすと国にお約束しているのですが,できればその倍、4名くらいの実績を残したいと思っています。黒沢先生は,その第一号という形で入ってきていただいたのですが。この5年間で4名の女性研究者の新たな配置を実現したいと考えております。

末松:やはりなかなか分野的にも難しいのでしょうか?

篠塚:そういう一面もあります。理工学系の分野によっては,そもそも女性の学位取得者数がまだ多くないので,なかなかこちらに来ていただくのは難しいのだろうなと。これからでしょうね。うちだけではなく,他の大学においても少しずつ理系の女子学生が増えていくので,そういう人たちがドクターまで行ってくれてという道が定着するようになれば,研究者供給源というのがきちんとしていくと思います。

末松:そうするとやはり彼女たちが育っていくのを待つしかないということでしょうか。

篠塚:簡単に言うとそうでしょう。

末松:他に何か方策があるといいと思うのですが,何かないでしょうかねえ。

理系の院生のキャリアパスがはっきり見えてくるようになればいい

篠塚:あとは女性で大学院までに行きたいと思う人たちが,大学院に出た後できちんと専門性を活かせる職業に就くとか,キャリアパスがはっきりしていたら、大学院に行きたいという人も増えてくるのではないでしょうか。ずっと昔ですが,桐生女子高校の先生に頼まれて女性の理系のキャリアパスについて講演を依頼され,工藤先生はじめ何人かの先生方にお話をして戴いたことがあります。高校の先生方もそういったことは気にはしておりますし,こうした講演会に参加する女子学生が多いということは、気にしているのだろうなと思います。理系のキャリアパスといったものがはっきり見えるようになればいいと思います。これは女子だけではなく男子だってドクターコースに行っても,その後のキャリアパスがはっきりしていないと,大学院に進学しないですよね。そういうところの整備が必要なんじゃないかなあ。

末松:今,男女共同参画を各大学で進めていて,かなり理系の女子学生をみんなである意味奪い合っている状況なので,魅力的なポイントが打ち出せるといいと思うのですが,何かお手伝いできるようなことはないでしょうか。

男性の研究者も家庭に参画できる仕組みづくりを

篠塚:あとはもちろん女性だけではないのですが,男性の研究者でも家庭を持って子どもができる,あるいは高齢の親御さんがいる場合に,そういうものをどうやって研究生活と両立していくか。そういう中で,やはり女性にかかる負担が家庭的には大きいですので,そこをうまく緩和できるような仕組みとか体制ができると、また女性研究者が増えやすいと思いますが。こういうのは,言うのは易しいのですが,どう支援体制を構築するかとなるとなかなか大変ですね。

末松:3キャンパスありますので,一つだったら強力な支援体制ができるのだと思うのですが,三つ足並みをそろえていくのはそれぞれ需要が違いますし,大変ですね。

篠塚:医学部は託児所を作りましたが,あれはうらやましかったですね。医学部もそれなりに大変だけども,医学部だから自前で何とかできる訳ですよね。

末松:「まゆだま広場」は,たとえばベビーシッターさんをご自分で雇いここで使っていただくというようにー託児所にはならないですがーそういう形で活用していただければと思います。単にミーティングだけではなく,幅広い用途で利用していただきたいです。

工藤:近くていいですね。

末松:そうすれば時々は子供の様子を見に来られますでしょ?

工藤:託児って専門家を置かないとだめだと思っていたので,

長安:安価で利用できる地域の「ファミリーサポート制度」とかも使えるので,

篠塚:しかも自分のお子さんが学内で見てもらえるのであれば安心ですよね。

末松:これからそういうことはいろいろ検討していこうとしているのです。このほか、特に女性研究者の採用促進案というのは特に具体的なものはないのでしょうか。

高度人材育成センターでポスドクインターンシップへ期待

篠塚:今のところは「まゆだま広場」を整備していただいたように,こういうものが女性研究者の採用促進に向けた一つの割と大きな取組ではないでしょうか。後はさっき言ましたように学部生の女子比率は高いのですが,大学院の女子比率はずっと横ばいで,一定数以上伸びていないのです。それは先ほど触れたキャリアパスの問題もあるのだと思いますが。キャリアパスといえば,ちょうど高度人材育成センターでポスドクインターンシップが始まったではないですか。おかげでうちはあのプログラムに参加したドクターたちの就職率は非常に高いので,うまく行っていて,女性のドクターの中にも浸透してくれれば,それでドクターを目指そうという機運も出てくるのではないかなと思います。

末松:ちょっと伺いにくいのですが,男性の先生方の意識としては女子学生でも男子学生でも変わりなく指導というスタイルでやっているのでしょうか。女性だからやりにくいということはありますか。実験とかになると私は専門外で分らないのですが,どうですか?

工藤:土橋先生のところのある学生さんなどの様に,すごくしっかりして優秀な人もいるので,変わりないですね。

土橋:理工学部は,女子もすごくしっかりした人が多くて,全然男子と変わりありません。

末松:もちろん接し方は男子学生と女子学生ではある程度変えなくてはいけないと思うのですが,研究指導という観点からでは差別することなくできるのではないでしょうか。

篠塚:やはり先生方によっては,慣れていないというとこがあると思うので,だから,やり難いというよりも,どういう風にしたらよいのかなと思っている人は多いと思います。

末松:そうすると,慣れている先生が伝授するようなFDみたいなものがあると良いと思うのですが。

花泉:やはり男子の多い中で少ない数で頑張っている優秀な女性は多いですよ。男女の区別というより,一人ひとりの個性に合わせてやらないと,引きこもってしまうとか,そういうケースは一人ひとり見ていかないといけなくて,そういう意味では男子の方が手がかかるケースが多くて,あまり手のかかる女子学生はいないです。それと女性同士で,タテヨコで繋がっているみたいなので,そういうのは大いに活用していただいて,情報交換など広がっていくと良いですね。

末松:そういうネットワーキングの場に,「まゆだま広場」も使ってほしいですね。さきほど,学生さんたちにランチをここで食べてもよいとお話ししたのですが,先生たちの学生さんたちにも,なるべくお昼にここを開けてもらい,たまには男性のいないところでゆっくり食べたいということがあればここで食べていただいてもいいですし。お昼休みにここが開いていればせっかくのスペースなので,ネットワーキングの場として活用していただきたいと思います。では,最後に理工学部の男女共同参画推進についての今後の抱負やお考えを聞かせていただけますか。

篠塚:現状ではいくらなんでもというぐらいうちは女性教員が少ないのですが,これは積極的に女性教員を採用しようという動きがもともとなかったからなので,女子学生が多くなって,女子のキャリアアップというのが基本であるならば,覚悟して女性教員を増やすべきだと思います。最初に触れたように,そもそも日本の少子高齢者社会の中で子どもの数が減っていく中で,優秀な人たちをどんどん理系の方に取り込んで人を育てていかなくてはいけないと言っている時には,男も女もないわけですよ。ただうちにもし女性が,学生にしろ,教員にしろ,来られないような要因があるのならば,それをどんどん取り除いて行って,普通に来れて,普通に勉強して,普通に職に就ける,そういうことを地道にやっていくしかないんだろうなあと思います。あとは,私とか理工学部では男性の中でずっと暮らしてきたので,施設とか物の決め方,考え方も含めて,それが当たり前だというところがあったのですが,たぶんその中でも変えていかなくてはならないところがあると思います。あまり具体的な話にならないで申し訳ないのですが。

末松:何か質問はございますか。

長安:男性の育児参加・介護参加は意外と大きな課題なのかなと先ほどのお話を聞いていて思っていたのですが,いかがでしょうか。

篠塚:そうですね。これは最終的には各個人の話に還元されてしまうので,なんとも言いにくいですが,うちの男性教員の方を見ていると何らかの形で積極的に家庭へ協力をされている人は多いと思います。

長安:大学の先生方は,家庭の参画率は確かに高いですね。

篠塚:そうだと思います。 長安:研究支援者制度もできるのですが,男性の方も連れ合いの方が研究者であれば適用されるのでぜひ活用していただきたいです。

末松:育児だけではなく介護の方も。

篠塚:そういう制度は男性の教員でも応募できるということで,若い男性教員もこれいいねと言っていました。やはり子どもが小さい時はどうしても手がかかるので,若い先生方が助かるという可能性がありますね。

工藤:支援者制度というのがもう少し使いやすくなればと思うのですが。

末松:予算にしばられている間はある程度の制約があるので,それが外れると自由になるのですが,そうすると予算を組まなくてはならず,なかなか難しいのですが,最大限利用していただけるよううまく調整しながら進めていくことを考えています。

花泉:たとえば配偶者が熱を出した時に1歳とか2歳だと大学に連れてくるしかないですよね。そういう場合にこういう場所があると良いですよね。

末松:そうですね。

篠塚:男性教員も助かりますね。

花泉:休むかどちらかですからね。

長安:この間,荒牧のほうに事務の方でしたが,子どもさんを連れて来られて,お連れ合いの方が育児休暇明けで復帰されたばかりで,連れて行くところがないんですということで「まゆだま広場」に来て,おしめを換えたりご飯を食べさせたりーそういう使い方もしていきたいと思っています。

篠塚:私もまだおしめを取り換えることはできるかな。

長安:これからは孫育てとかありますからね。

花泉:私も一番下は夜を担当して,3時間おきに授乳でした。今はいい思い出ですよね。

末松:これから徐々にいろいろな制度を整えて,支援を広げていきたいと思っておりますので,今後ともどうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました