理事インタビュー ~男女共同参画を語る~

とき
平成27年1月16日(月)
場所
荒牧キャンパス・まゆだま広場
インタビュー
平塚 浩士 男女共同参画推進委員会委員長・
       理事《研究・企画担当》・副学長
インタビュアー
末松 美知子 男女共同参画推進室長
長安 めぐみ 男女共同参画推進室講師

末松:先生が理事でいらっしゃるときにこの事業を始めることができて、私どもは運が良かったと思っております。男女共同参画推進について共感を持って進めていただいて、本当に力強く思っておりました。まず、大学における男女共同参画についてのお考えを伺いたいのですが。

職場から早く帰ることのできない現在の働き方

平塚:まず、ひとつは私が工学部の出なので、ほとんど女性がいなくて、非常にいびつというか、歪んだ印象をいつも受けていました。私の家の方は女性が多かったので特に違和感が大きかったのかもしれないです。私は群馬大学の工学部、その後東京工業大学と女性が少なかった環境を歩んできましたので、荒牧に来て女性が多いことが目についたというか、そういう印象がありました。今まで自分がいた世界が不思議な世界だったと思いました。私の妻はいわゆる共働きで小学校の教師をずっとしていたので、子供の送り迎えを学童保育にお願いしていたこともあって、そういう意味では男女共同参画の活動に関して違和感は全然持っていませんでした。多分子供の養育との関係もあったと思います。

末松:個人的なそういったご体験から割と違和感なくというお話でしたが、同じような状況の男性はたくさんいらしても、やはり家庭は家庭、仕事は仕事という感じで、職場に行けばやはり男性が中心と思われている方がまだ多いと思います。

平塚:そうですね、今までの大学もそうだと思いますが、働き方として、職場に長くいる方が良い、根を詰めて仕事するべきだという考えがあります。そういう長くいればいいという考え方が日本人の働き方を歪めてきたと思うのです。本当はみんな早く帰りたいはずです。もうひとつは、アメリカに留学していた時にアメリカの研究者が多分4時55分くらいになると仕度して、5時ぴったりにはいなくなるのを見てきて(笑)。残っているのは日本人と中国人だけ。東洋と西洋の宗教的考え方の違いもあると思うのですが。向こうの人は、長時間労働はフェアじゃないと言います。

末松:それで成果はどうなのですか?

平塚:成果はアメリカ人の方が良いと思います。というのは、良い成果を挙げるには多分考える時間や余裕が非常に重要だと思います。日本人は徒に長時間仕事をして、考えるよりも手先を上手く使って名人芸をやるという方向に行っていたと思います。

末松:凄く不安なのでしょうね。職場から早く帰って他の事をする、頭を切り替えることが。それがプラスになるとなかなか思えない。

平塚:先生のおっしゃる通りだと思います。職場から離れるのが不安なのでしょうね。

末松:今は若い世代は段々そうなって来ていると思うのですが、先生は先進的で自然にそのように考えてこられたのが素晴らしいというか。

平塚:素晴らしいというか、私自身は上の世代の影響を受けて遅くまで残ってやっていた方ですが、次の世代はそれをやってはいけないとは思います。

変化が見えてきた理工学部

末松:今後、群馬大学で更に男女共同参画を進めて行く上でやはり一番のポイントは理工学部になるかと思います。先生には理工学部に関して御努力いただいて、変わってきているところだと思いますが、先生のお考えをお願いします。

平塚:実はこの間、理工学部の新年会に参加したところ、新しくいらした女性の研究者の方が4人出席なさっていて、新年会自体の雰囲気ががらっと変わっていました。驚きました。やはり女性の研究者を採用していただいて凄く良かったと思いました。雰囲気ひとつ違うわけですね。

末松:どういう?リラックスした?

平塚:和やかな感じがはっきり出ていました。笑いが多いです。ちょうど私が行った時、新任の先生がご挨拶なさっていたのですが、和んだ感じを受けました。笑いが多かったです。その瞬間に私は全然違うと思いました。良かったと思いました。

末松:それが研究や大学の良い方向に繋がっていくと思われますか?

平塚:必ずそうなると思っています。やはり男性だから単線の考え方ですよね。全然違う方向から見ていただくことが非常に重要だと思います。

末松:それは凄く嬉しいですね。

平塚:少しゆとりが出ると思います。やはり男性社会というのはこう非常に厳しくて、失敗を許さないというか。そういう感じが非常に強いので、ちょっと和むと良い方向に繋がると思います。

末松:これは全く私の個人的印象なのですが、男性の方がレールを踏み外すことに恐怖を覚えていらっしゃるように感じます。小さいころから「男の子はこうで」というレールを走って来ていて、女性の方が紆余曲折あっても、最終的に辿り着けば良いと、柔軟に対応できる傾向にあるかもしれません。その両者が一緒にいるとお互いに良い影響があるのかなと思います。

平塚:私もそう思います。男性はある意味で折れやすい傾向があります。柔軟性に欠けるとも言えます。それを女性が補っていくと良い社会になるのだと思います。私自身もそうですが弱いですよ。曲がらないように曲がらないように自分で制御している。だから堅くなって、言うこともきつくなるのではないでしょうか。

末松:確かに学生への指導についても男性の教員と女性の教員がいれば全然雰囲気は違ってきますね。

平塚:工学部にいる時、女性の方が技官でいらっしゃって。1人でも全然雰囲気が違います。学生も話しかけやすい。色々メリットはあったと思います。

末松:理工学部については今後もそういった方向が他の学科に影響すれば良いですね。

平塚:現段階では、いわゆる化学系の女性研究者が倍増しました。今後は電気系や機械系の方に頑張っていただいて、更に増やしていただきたいと話をしています。

今後の男女共同参画とダイバーシティ

末松:1年半くらいこの活動をしていて、一番難しいと思うのが意識を変えていくということです。やはり自分には関係ないという風に思っている方が多い。それから、管理職や色々なポストに女性が増えていくということもすごく難しい。今後どうして行ったらよいでしょうか。

平塚:それはひとつ大きな課題だと思います。底辺が広がらないと大きな建物も建てられないというか。徐々に女性の研究者を増やして、執行部のパーセンテージも上げていくというのが一番確実だと思います。末松先生に少し頑張っていただいて・・・。次の方が出てくるまで。

末松:たくさんいらっしゃるのですが、なぜか委員長などになかなか女性が選ばれない。

平塚:そうですね。執行部に行ってみると、お会いする機会がなく、どういう先生がいらっしゃるかなかなか見えてこないので、是非執行部との懇談会を開いていただくことをお願いしたいです。

末松:それぞれの学部長なり学科長は女性がいらっしゃるのを御存知なので、推薦するようなシステムが必要だと思います。

平塚:そうですね。そういうルートも必要ですね。

末松:色々考えてはいるのですが、事が大きくて難しいです。管理職ができる女性は多いと思うのですが、一歩踏み出せない。

平塚:そこですよね。女性の先生はちょっと尻込みするところがあると思います。周りがバックアップすることを分かっていただければ、もっと変わってくるかと思います。現段階では末松先生しかいらっしゃらないということで、ロールモデルとして十分伝わっていないところがあると思うのですが。

末松:私にすべきことがあるとすれば、少しおこがましいですが、管理職に就いた時の心構えや気楽に出来るということを伝えていくことではと考えています。

平塚:それはとても大事だと思います。もうひとつ、各部局というか学部でもいいのですが、そういうところの委員会で役職に就いていくことが大事だと思います。いきなりだとなかなか抵抗があると思います。学部長の先生方にお願いして各委員会の長にしていただくと良いと思います。

末松:そういったところでの経験が先に繋がりますね。

平塚:そうですね。どうしても御自分の研究に没頭したいという方が多いと思います。

末松:それが本音ですね(笑)。役職や色々な管理運営に携わることの負担をどこかで軽減するような仕組みも必要ですね。

平塚:サポートのシステムですね。昔は学部長などは名誉職だったわけです。法人化されてものすごく忙しくなったと思いますが、その前はある程度余裕があって、名誉職のような形でなられていたと思います。偉い先生がなられたので、サポートのシステムもいらなかったのだと思いますけど。今は大変お忙しいので学部長の皆さんにもサポートがいる状況になっていると思います。その辺をどうやって上手く作っていくかがひとつの課題ですね。女性だけに限らずやはり文化を変えざるを得ないと思います。委員会はなるべく短くやる。私自身もなるべく1時間くらいで止めるように心がけてはいるのですが。なかなかそうはいかない時もあって。

末松:「ノー残業デー」のようなものを実施して、雰囲気作りというか、そういったこともやっていった方が良いのでしょうか。

平塚:それはありますね。もうひとつの問題は、残業しないとやっていけない社会ですよね。それが大きな壁になっていると思います。

末松:時間で帰ってくださいとは言いにくいですね。その分のお手当のことを考えますと。

平塚:その辺が矛盾ですよね。私としては早く仕事を止めていただいてと思うのですが、生活に差し支えると言われるとあまり強く言えないというのはありますね。

末松:特に職員の方々は大変ですね。

平塚:かなり差し支えるのではないでしょうか。日本全体を変えていかないと本当は駄目ですね。昔は終身雇用で会社に命を捧げるような感じ、封建時代ではないけれどそういう考え方だったと思います。遅くまでいて頑張っているという形を見せるのが非常に大事だったと思うのですが、今は企業の立場から言えば、早く帰っていただいて、余裕を持って良い考えを出して貢献してもらうというのが良いのだと思います。

末松:これからは自宅での仕事ですとか、労働形態も変わっていくでしょうし、そろそろ発想の転換をしても良いかなと思います。この少子化の状況で今までと同じような働き方では無理ですね。転換する時が来ているという気はしています。

平塚:その辺をどこで切り替えられるかですね、ポイントは。

末松:群馬大学の男女共同参画の動きも今は女性中心でやっていますが、これからは男性で介護をなさっている方なども含め、ダイバーシティという方向に向かっていくべきかと思いますが、その辺はどうお考えですか。

平塚:先ほどの話の続きになりますが、ダイバーシティがなければ、何か危機があった時にやっていけなくなる。それはあちこちで経験しているわけです。強靭な組織にしていくかためには女性、若者、外国人の方も入れて変えていく必要があると思います。

末松:日本人は色々な人とやっていくという発想であまり教育されていませんから、自分の世代を見ているとそれに耐えられるのかと。

平塚:若い人は柔軟かと思いますが、我々の世代は非常に苦しいと思います。でも、それでも私は国際学会などで色々外国人とお付き合いしているのであまり抵抗はないですね。外国に1回行ってきてみると、変わってくるでしょう。ずっと日本に閉じこもっているとまずいだろうと思います。今、大学はグローバル化を進めていますが、どんどん学生さんにも外国に行って様々な経験をしてもらいたいと思います。ダイバーシティを持っている組織が普通なのだということを知っていただくと良いと思います。私が留学している時もヨーロッパから結構人が来ていました。南米の人も職員としていましたし、そのほか、日本人、中国人、インド人などが普通にいました。そういう社会が普通だったし、街にもいました。アメリカなどではそれが普通だと思います。日本があまりにも少なすぎますね。今、安倍総理が取り組んでいるいわゆる「岩盤規制」ですか、外国人だとお医者さんとして認められませんね。先生も日本の教員免許を取らなければ、教員にもなれない。ある程度は当然なのだと思いますが、それをどこまで緩くするかということと関係すると思います。

やれば出来るを大切に

長安:若い世代、特に今頑張っている女子学生にメッセージを是非お願いします。

平塚:私は工学部にいましたが、女子学生もいました。最近は女子学生の方が頑張りますね。昔の女子学生には徹夜しろとか言えなかったのですが、今は自分から進んで実験もやります。もの凄くやる気があって、意欲があって。これは男性は負けているなと思っていました。企業の方も私が20年前くらいに就職担当をやっていた時には女子は駄目だと言われましたが、10年前くらいからは全く違います。「女子が頑張るのが分かりました」とはっきり言われました。そこは全く心配してないですね。

長安:案外、企業の方が進んでいるのでしょうか。女性を人材として欲しいと思ってくださっている。

平塚:昔は女子学生が先輩の男子学生を上手く使って(笑)、色々教えてもらったものですが、私から見ると上手くコントロールして(笑)。最近は逆ですね。女子学生の方がどんどん進んで自分からやってしまう。いずれも変わるのだなと分かりました。

末松:私は企業の方と接点が無いので、企業風土が変わってきているという実感がないのですが、先生は実感されていますか?

平塚:どんどん変わっていると思います。

末松:それはそうでないとやっていけないからですか?

平塚:そうですね。本当に女子が頑張るようになりました。

長安:ある意味追い風ですよね、今は。

平塚:そうですね。普通にやっていても徐々に変わっていくでしょうが、それでは進み方が遅いということで、男女共同参画推進をやらなくてはいけないと思いました。やはり問題点としては、末松先生がおっしゃったように、執行部というか、指導的な立場の女性をどうやって輩出するかということだと思います。これもいずれ変わってくるとは思うのですが。

末松:そうだと良いなと思います。

平塚:経験をさせていただくことが大事です。私も理事をやるとは思っていませんでしたから(笑)。学科長をやったり、色々他の委員会をやったりして徐々になってきている訳です。

末松:そうですね。11月の地域連携シンポジウムでも、登壇された方は皆さん当然なるべくして今のお立場になられたように思っていましたけれど、意外に、「なると思っていなくてなりました」という方もいらっしゃいました。どなたでもチャンスがあればやってみて良いのですね。

平塚:やれば出来ます(笑)。

末松:やれば出来る、その気持ちですね。

平塚:私は自分の恩師から「仕事が来たら断るな」と言われました。それをモットーにしてずっとやってきた結果、こうなったのだなと思います。最初に断ってしまうとだいたい仕事は来なくなってしまうので、まずとにかくやってみる。何とかなるということじゃないでしょうか。良い意味でやってみなければ分からないということです。

末松:そういう風に先生がやってこられたのは、色々なサポートがあったからですか?

平塚:あったと思います。

末松:自分の周りにサポート体制を自然に作っていくようなコツはありますか?例えば、他の人に仕事を分けていくコツとか?

平塚:そうですね。結果的には分けたことになると思いますけど、やはり信頼してお願いするということだと思います。自分で全部やることは出来ませんので、お任せしてやっていただくという。

末松:お願いできるような方を探して、良好な関係を築いてということでしょうか。

平塚:自然とそういう風になっていくと思いますね。委員会でも、つぶさに見れば、「○○先生にお願いすれば大丈夫かな」というのが分かる。

末松:この方にはこれというように。

平塚:息抜きもありますし。

末松:周りを見て、お願いしていくということですね。

平塚:そうすると徐々にそういう方が増えてきて、自然とできるようになるのだと思います。
自分一人でやろうとすると怖いですから。

末松:先生のチームのようなものをお持なわけですね。

平塚:前の委員長の方から教えていただくこともあります。

長安:前任者からですね。

末松:やはり経験を伝えていくということが非常に重要ですね。

平塚:そうです。いわゆる人脈ですね。

末松:やはり女性はなかなか経験がないので難しいのかもしれません。

平塚:それだとやはり懇談会など色々やる必要がありますね。

長安:是非懇談会を。

平塚:個人でやっているとできません。一緒に何か仕事をしていくことが非常に重要だと思います。

末松:そうですね。

平塚:女性だけではなくて、女性のグループに男性も巻き込んでやっていただいて、サポーターを作っていくのが必要かなと思います。そうすれば全然心配ないです。必ず応援してくれますから。

末松:では、最後になりましたが、今後の男女共同参画推進室、あるいは室の事業に対してお願いします。

平塚:そうですね、私もこれで退任となりますので、是非これは成功していただきたいと思います。先ほど申し上げたように、潜在的にサポーターはたくさんいます。声を掛ければどんどん参加してくれると思いますので、そういう風にして集めていただいて、全体の雰囲気を変えていただく。そして女性の先生方には是非色々なことをやっていただく。全然怖くありませんので(笑)。サポーターは必ず付きますから。そうしないと男性が困るわけですよ(笑)。明らかに日本社会は困っている訳ですから、変わらざるを得ないということです。私は群馬大学も必ずうまくいくと思っておりますので、是非皆さんの積極的な参加を希望します。

末松・長安:どうもありがとうございました。