工藤:お忙しい中ありがとうございます。今日は新しく男女共同参画推進委員長になられた和泉先生にお話を伺いたいと思います。先生は今までも推進委員会のメンバーでいらしたと思いますが、これまでのまゆだまプランの取組みについてご感想などお伺いできますか。男女共同参画推進室がやってきた取組で何か役に立ったり、波及効果があったと思われたことはありますか。
和泉:研究活動支援者の配置が挙げられますね。研究者の育児等ライフイベントにあわせて、研究支援をしてくれる学生,主に大学院生に労働の対価がRAのような感じで支払われます。研究をしながらそれに対する労働の対価を得ることができる、しかもそれが女性の育児などのライフイベントに貢献できるという、二重の意味でありがたい制度だと思っています。
佐藤:和泉先生は医学系研究科の基礎の研究室ですが、そこでの女性研究者に対する感想,ご自身の研究室の中での状況などを教えていただけますか。
和泉:何より佐藤先生がすばらしい研究をされておられるので尊敬しております。
私がいる昭和キャンパスには附属病院という大きな組織があって、病院,そして保健学科はいずれも女性が活躍している職場なのですが、残念ながら私が所属している医学部の基礎系の教室には女性教員があまりいないのが現状です。しかし,基礎の研究室配属とか、医学部で行っているMD-PhDコースでは、活躍する女性の比率が多いですね。私は生化学ですが、生化学の教室にもMD-PhDコースの学生さんが来てくれます。今、医学部全体の女性の比率は4割弱ですけれど、MD-PhDコースの女性の割合は、私の印象では4割を超えているのではと思います。ただ、その方達が大学院とか大学院を卒業した後に基礎の研究や臨床医学の研究者にそのままなっていただけるには色々な課題があると思っています。
佐藤:個人的には昔に比べると女性研究者が増えてきているなという感覚があるのですが,先生はいかがですか。
和泉:うーん、どうでしょうかね(笑)。昔というと、自分が学生の頃の40年前に比べると増えていると思います。生物学や分子生物学などの領域では増えていると思います。
佐藤:海外と比べるとどうですか。
和泉:私はスウェーデンのカロリンスカ研究所に留学していたのですが、海外はまず医師の女性の割合が日本より更に多い印象があります。あと、女性研究者の割合も日本よりは多いですね。
佐藤:スウェーデンなどはすごく女性の社会進出が進んでいる国ですよね。日本ではそのレベルまで達していませんが,原因や理由を何かお感じになられますか。
和泉:ご存知と思いますが、北欧は社会保障制度が非常に発達した国々で、私が留学していた35年くらい前には、既に消費税が25%くらいでした。消費税を医療・福祉に回して、医療・福祉のシステムというか産業を含めてですが、そこでまた雇用を生み出す。それに医療・福祉には女性が向いている分野も多いですし、さっき言ったように女性の比率が元々高いような分野ですので、そこで女性の雇用を生み出しているというのもあって、社会全体のシステムとして女性が進出しやすいシステムになっていると思います。わざわざ『女性の社会進出』という必要もないくらい、女性は進出しておられますので(笑)。
工藤:和泉先生の生化学の学会の状況はどうでしょう。女性の割合も結構多いのでしょうか。
和泉:結構多いと思います。基礎の分野で多いと思います。特に生命科学の分野は女性の割合は多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
佐藤:そうですね、どんどん増えていると思います。私が学生の頃と比べても特に大学院生など若い世代で女性の割合がすごく増えていると感じますね。
工藤:その方がさらに先に進んでくれれば良いのですが・・・。
和泉:大学院生の割合としては増えているのですが、そのまま大学や研究機関に残ってスタッフになれるかという点については,まだギャップがあるように感じます。
工藤:それはどの分野でも共通のような感じがいたしますね。
佐藤:そうですね。それでも少しずつは増えていると思います。学会でも会場に託児室を作ってくれたりしていますね。そういうサポートは整ってきています。
和泉:そうですね、生化学会でも託児室を作ったりしていますね。
それと、前とは違うのは女性の座長さんとかが増えていますね。発表者だけでなくてね。
工藤:和泉先生ご自身もご家庭で育児に関わっておられると伺いましたが、その辺りは。
和泉:そうですね、実は妻が小児科医でして。共稼ぎだったものですのですから。私の意識では平等に負担したと思っていますが(笑)
工藤:すばらしい(笑)!その当時はそういう人は珍しかったですか。
和泉:そうですね,30数年前ですけど。というか、そうせざるを得なかったというか。妻が小児科医として現役でフルタイムで働くためには私だけでなくて、妻の家族とか職場の方も含めて皆が支えないと難しい状況だったと思います。だから、幸い妻は育児ということで小児科医としての自分のキャリアを中断することなく、産休明けからはフルタイムで働いていますので。当時としては稀なケースと言えるのかもしれません。
佐藤:男性側が育児に参加するのも当たり前な雰囲気になって欲しいなってすごく思うのですが。やっぱりパートナーのサポートがないと女性だけで育児を全部するのは無理なので。
工藤:特に女性が仕事を持って育児をするためにはね。
佐藤:パートナーの方の意識も変わって欲しいし、それを上司の方や周りの方が受け入れてくれるような環境ができたらいいなと。
和泉:そうですね。単に育児だけではなく家事全般を分担しないと。実際には妻の割合が多いとは思いますが、少なくとも意識の上ではイーブンに(笑)。例えば、料理を作るのは妻がやるけど片付けは私がやるとかですね、お風呂掃除は私がするとか。
工藤:この取組でもその意識啓発というところに力を入れていますが、人によって本当に違うので、そういうことは全然興味ないよってそっぽを向く人もいれば、とても興味を持ってくれる人もいます。
和泉:私もそうですけど、やはりスウェーデンに留学して、北欧の社会を見たのが大きいかもしれませんね。妻と夫は家事も育児も分担するのが当たり前の社会でしたので。
工藤:では、推進委員長としてこれからの抱負をお聞かせ下さい。まゆだまプランでは女性研究者比率など目標値もいくつか設定されています。
和泉:女性の比率がいくつかのところで目標値として課されていますので、それはクリアしなくてはいけないと思っています。理想を言えば、あの比率はもっと高く設定したいのですが、現実的には現在働いている方がいますので難しいところもあります。でも目標値を設定して、それに向かって色々な取組をしなければならない必要性は認識しています。学長の指導の下に、その目標の数値を達成するような取組を進めていく必要があると思います。まずは目標数値と現状を把握できるようにしていただいて、それを学部長等も参加する男女共同参画推進委員会やさらにその上の役員会に私が定期的に報告するようにして,情報を共有するようにしたいですね。
工藤:推進室では今後も色々なイベントや取り組みを企画・立案して、委員会に提案させて頂きたいと思います。でも、やはり各学部長等というか、組織のトップのご協力が必要です。
佐藤:群馬大学のまゆだまプランは今年度が最終年度なのですが、もうちょっと長い目で見た男女共同参画に対して何かご意見を。
和泉:こういう立派な憩いの部屋(まゆだま広場)を作っていただいているので、勿論これは継続するし、よりパワーアップして、次のステージを目指せるような活動にしていく必要があると思います。色々な室の取組もやっていかなくてはならないので、そのためには人員とか予算とかをどうするかが大きな課題になると思います。
工藤・佐藤:今日はお忙しいところありがとうございました。
和泉:ありがとうございました。