佐藤:今回は生体調節研究所の泉所長にお話を伺います。最初に生調研での男女共同参画の現状についてお話しください。
泉:私どもの部局は研究が主な対象ですから、どうしても論文とか研究費取得とか客観的なものが指標となります。その点は男女の差別は全くありません。一方で、研究所は人数が非常に少ない、30名余りの部局ですので、女性を優先的に採用するのは難しいという事情があります。ただ現在、助教以上の職では18%が女性教員で、平成24年度の12%から徐々に上がってきています。また割合だけでなく教授、准教授のような上のようなポジションの方も入るようになってきた。以前は助教の方くらいまででしたが、段々と女性が進出して、実力がある方が増えてきたという結果だと思います。
佐藤:今年は生調研で初めて女性の教授が誕生しましたが。
泉:これは生調研にとっても非常に良かったと思っています。実は生調研だけでなくて医学系研究科という大学院の中でも初めての女性教授です。彼女の場合も非常に実力が高かったために選出されました。
佐藤:女性枠という訳ではないですよね?
泉:もちろんです。2名の教授を同時に公募して、男女1名ずつが採用されました。一般枠で、優秀な方が実際現れてきたということですね。
長安:一般で優秀な人が出て来ることが理想ですよね。
泉:そうですね。大学だけでなく、学会等でも最近は女性の研究者が増えていますし、非常に優秀な方も増えていると思っております。研究所は文部科学省から共同利用・共同研究拠点に再認定されたのですが、常に厳しい評価の対象で、そのパフォーマンスを問わています。ちょっと調子が悪いと「もうなくても良いじゃないですか」ということになってしまうので(笑)。結局、我々の価値観っていうのは恐らく研究一本です。私も所長になって、研究力を持続させることプラス、とにかく研究で外に訴えていかないともう将来はないと考えるようになりました。
長安:その中で女性が活躍できる機会が増えていくといいですね。
泉:女性が活躍して、それが男性と同じくらいであれば、必ず女性の方が目立ちます。我々も本来、女性の方で優秀な方がいらっしゃれば沢山取りたいと思っています。今回教授だけでなく、新たに助教のポストでも女性の方を採用いたしました。そういうこともあって、非常にありがたいなと思っています。
長安:ピカッと光るものを持っていれば、少ないだけに目立つぞということですね。
泉:研究というのは客観的な指標で評価されますが、特に理系の研究は時間もかかる上に、結果が必ず保障されているわけではありません。僕は医者だったのですが、男性が臨床を捨てて研究一本でいくのは中々勇気がいる、家庭があるときには特にです。才能としては男性も女性も同じだと思いますが、返って女性の方がリスクを取れるのではないかという気がします。もちろん女性は女性で大変だとは思いますが、芸術家とかスポーツ選手でも女性の方が、決断し易いのかなと時々思うことがあります。
それともう1つは、女性は家事などがあるので、研究においても無駄なことをしない。すごく緻密に計画をして、効率的に進める方が多いと思います。そういう意味で、本当に女性で活躍している人も増えているのではないかと思います。
長安:持っている時間を最大限有効に活用してということですね。
泉:そうですね。もちろん家事とか凄く大変だと思いますけれども。
長安:ワークライフバランスという点で、女性は男性の少し先を行ってますよね。
泉:そうなのですよ。ただ、問題は子育てだけはどうしても女性になっちゃう・・・と思うのですよね。最初のうち、小さいうちは致し方ない部分もあります。
佐藤:小さいうちはそうですね。
泉:成長すれば、多少育児を分担するってこともできるのかもしれないですけれども。授乳とか色々ありますから。
長安:出産は女性にしかできませんし。
泉:そうなのですよ。最初の2~3年の内はどう頑張っても女性に負担がかかってくると思います。
長安:その2~3年をどう支援するかですね。
佐藤:でも、研究をやっていると2~3年ブランクを空けるというのはちょっと厳しいですよね。
泉:科学研究費の申請のときにも過去5年間の論文を書きますから。最近は出産があったとか考慮することも多少ありますが、やはり過去5年の論文で数が少なくなると、途端に取れなくなります。
佐藤:研究している女性本人は、「早く復帰したい」と思う人が多いです。できるだけ早く復帰するための支援があれば良いと思います。
長安:パートナーの協力が重要ですね。
佐藤:そうですね、男性側のワークライフバランスも重要だと思います。女性研究者のパートナーは研究者であることが多いので、パートナーにも負担して欲しいとなると男性側のワークライフバランスにも配慮していくような雰囲気が欲しいですね。
長安:風土みたいなものですね。泉先生のライフワークバランスはいかがですか。
泉:言うとお恥ずかしいばかりで・・・。一番これを恐れていたのですけれども(笑)。私も古い方の人間なものですから・・・。元々医者をやっていまして、東京にいましたので臨床的な勤務もあったし、通勤に1時間くらいかかったのもあって、朝6時過ぎに家を出て、色々やると夜10時、11時になって、休日も仕事に行っていましたから、全く家事をやってきていなかったですね(笑)。たまたま妻は職業がほぼ主婦だったということもあったのですが。ワークバランスとかもやってきたことがないので、これは非常に説得力がないところで(笑)。本当に申し訳なく思っています。すみません、本当に(笑)。
佐藤:若い男性の研究者が例えばそういう状況になった時は、上司の方の理解がとても重要だと思います。
長安:「イクボス」と言うのですよ。
泉:なるほど、そうですね。研究者同士が結婚された場合には両方とも同じくらい仕事と家庭に参画出来れば良いのですが、必ずしもそうとは限らない時もありますから。全く平等なら良いのですけれども、家庭もあるからどうしても多少どっちかが我慢しなくてならない。子どもができたら、そのことも考えなくてはいけないし、そういうところはそれぞれの夫婦で解決していかなければならない。それでも社会として、必要なサポートをできるようなインフラは大事だと思います。
長安:研究活動支援の利用にしても、皆さん、しっかり結果を出してくださっています。そのような支援が安定してあること自体が男女共同参画を進める上でも女性活躍を進めるにしても大事なことだなと考えています。
泉:そうですね。多分、研究は割と自分で計画を決められるので、一見自由であるように見えるのですけれども、結局どこまでやるかも自分次第というのもあります。長期的には自分の努力とか自分の経験の蓄積が物を言ってくる世界なので、そこが凄く難しい。自分が例えばある時間からある時間までやれば一応満足だというのではなく、自分が研究者としてどうかということを考えているので、常にその葛藤がある。いくらヘルプがあったとしてもても、研究者自身、葛藤があると思います。
長安:もっと自分は出来るのにって。
泉:そうでしょうね。また、実際に結婚されなかったり、あるいは結婚しても子どもがいらっしゃらない女性の研究者もいることは事実ですね。
長安:色々な生き方がありますよね。
泉:ただ、女性の場合は、本当は家庭を持ちたい、本当は子どもが欲しいのに我慢しているかもしれない。私のように、のうのうと自分の仕事をやっている人もいますし(笑)。 そういう意味で、女性は大変だなと思います。能力的には男女の差は全然無いと僕は思っているけれども、そういう支援というのは大事だと思います。実際、男性も「主夫」をやりたいっていう人も、段々増えてきているところもあるし。それぞれの家族がそれぞれに決めれば良いことだと思います。
佐藤:それでは最後に、今後の生調研または大学全体での男女共同参画についての展望についてお聞かせください。
泉:小さな組織なので、生調研で子育てのための何かをするとかは難しいと思いますが、今群馬大学でもやられているような、例えば大学の中に保育所とか、そういった女性の参画をヘルプするような支援は広げていっていただきたいですね。そういうことが進んで、女性の方がどんどん進出して欲しいと思っています。また、研究所としては優れた人を取りたいっていう思いがあって、私が所長になってから3回教授選考がありましたが、純粋に研究に特化して客観的指標で選考しているのではないかと私は思っています。研究所は公募についても女性優先とは書きませんけれども、同じくらいならば女性を取りたいと謳っております。枠が限られているので現状では必ず女性という訳にはいきませんが、もし本部が「女性枠」を新たにくれれば喜んで選考します(笑)。正直言うと優れた女性の研究者は、どこでも欲しいのではないかと思いますよ。どの大学でも取りたい。競争になっていると思います。うちも良い人が来てくれたなとうれしく思っています。
長安:インセンティブのところですかね。女性限定の経費を持ちますとか。中期目標、中期計画で、生調研は、男女共同参画というか女性や若手の活躍の研究推進を掲げてくださっていたように記憶しております。あれは全体の中で見るとピカっと光っておりました。
佐藤:生調研では若手全体への支援にも力を入れています。
泉:そうですね、もちろん全学でもやっていますが、生調研でも若手または女性研究者で一定以上の論文を発表した方には表彰をして、所長の裁量経費から研究費の支援をしています。男性は40歳以下が対象ですが、女性は特に年齢制限がなかったと思います。
長安:門戸を広げてチャンスをくださっているということですね。
泉:あとは先ほども言いましたが、お産の時にどうするかとか、そういう支援についてもうちょっと考えなくてはなりませんね。僕が思うには、「これだけ休めます」「5時間働けば良いです」って言っても、女性の科学者にとってはそんなに魅力ではないと思うのですよね。むしろ働きたいのだけれども、その働いている間、誰か見てくれる人だったり、施設だったり、人材があるっていうことで訴えることがあれば、それをもし群馬大学で出来るといいですね。研究者は基本働きたくない人はいないと思うのですよ。
長安:今、両立支援アドバイザーが昭和でも活躍してくれていて、沢山の相談をいただいております。
泉:群馬全体の地域、群馬大学周辺では東京に比べてどうですか。
佐藤:前橋の場合、東京に比べると保育園などの環境はかなり良いと思います。保育園も施設を限定しなければほとんど入れますし。それと、群馬は家も職場も保育園も全部近くでコンパクトに纏まるので、通勤時間のロスも最小限にできると思います。
泉:そうですね。僕なんて言い訳じゃないけれど、電車で1時間なんて普通だったから。
長安:育児しやすい環境であることも魅力の一つとして売り込んでいければ良いですね。
佐藤:そうですね。地方の良さをもっとアピールできれば。
佐藤・長安:本日はありがとうございました。