教育学部長インタビュー ~男女共同参画を語る~

とき
平成28年12月20日(火)
場所
荒牧キャンパス・まゆだま広場
インタビュー
齋藤 周 教育学部長
インタビュアー
本多 悦子  理事(学長特命担当)
工藤 貴子  男女共同参画推進室長
長安 めぐみ  男女共同参画推進室副室長

教育学部は女性研究者がいるのが当たり前

工藤:今日はお忙しいところ、ありがとうございます。最初に伺いたいのが、教育学部における男女共同参画の現状について。色々な専攻があるので、学部長の先生からご覧になったのでよろしいのですけれども。

齋藤:教員の男女比で言うと、他の学部より女性の教員の比率は高いのですが、研究分野によって女性の少ないところは結構あります。逆に家政教育講座ですと女性の比率が高いのですが、それが良いことなのかいうことは難しいですね。で、それ以外のところですが、割とあちこちの講座に女性教員がいるのですが、数学と技術にはひとりもいなかったとか、そういう偏りは少しあります。国語、社会、英語・・・、国語は今はいないですけれども、かつてはいましたし、理科、音楽、美術、体育、障害児教育、学校教育もいる・・・と。満遍なく女性がいるという点では、女性研究者がいるのが当たり前の環境はできていますね。努力して作ってきたというよりも、分野的にそういう学部だったということですね。あとは、学生は男女比ほぼ半々なのですが、これはやはり専攻、教科による偏りが大きいです。典型的には家政だとほとんどが女子学生で、それに対して、技術は男性が多い。僕は社会にいるのですが、半々かやや男子学生が多いですね。国語や英語は女子学生が多い。障害児教育は女子学生が多いといった傾向があります。障害児教育についても、どうしても女性のケア役割という発想が根底にあって、入ってくる学生の進路に影響を与えているのだろうなという印象を持っています。偏り方っていうのは社会のジェンダーバイアスに影響を受けているという印象を持っています。

工藤:女性の上位職の割合はいかがでしょうか。

齋藤:教育学部は基本的に教授と准教授・講師しかポストがないのですが、教授で13%、准教授・講師で33%が女性です。

工藤:理工学部とだいぶ違いますね。じゃあ、女性の先生方も教授会で普通に発言されているのですね。男女共同参画がちゃんと行き渡っているような感じでしょうか。

齋藤:人数比も2割いるので、その点では女性だから発言し難いというのは恐らくないだろうと思います。教授会は、教授だけでなく専任教員全員が出席する場です。

本多:何人くらいですか。

齋藤:今は93人です。

本多:えっ、93人の会議ってことですか。

工藤:大きいですね。

齋藤:でも、教員養成系の単科大学ですともっと大きいって聞きますね。

工藤:意見の集約は出来るのかなって感じがしますが・・・。

齋藤:そうですね、多くなるとひとりひとり発言できる機会はどうしても少なくなりますよね。

本多:ただ、情報を共通認識できるっていうことは良いでしょうね、全員が出席すると。

齋藤:だから、教授と准教授の違いはそんなに意識しないですね。

本多:情報も同じように貰えるし、決定権も同じようにあるという形ですよね。

齋藤:教授も准教授も講師もみんな1票でやっています。

仕事と家庭の両立を実現するのは難しい

工藤:それでは話題を変えて先生のプライベートな男女共同参画についてお聞かせ下さい。おうちでもしっかりやっておられると伺っておりましたが。

齋藤:社会的には、専門で研究しているし、審議会委員もやっています。仕事と家庭の両立って難しいですけれども、仕事と家庭の両立話をして、家庭でやったことを授業のネタにする(笑)。

工藤:例えば?

齋藤:今は子どもが大きくなっちゃったのですが、子どもの小さい頃のおむつ換えの経験談とかそういうのを授業でちょこちょこっと織り交ぜたりしています。夫婦別姓の話ですと、自分の問題として、こういうことを考えたから、婚姻届を出さないで事実婚でやっているとか。まぁ、現物教育ですね(笑)。偉そうなことは言えないのですが。結婚相手の彼女も僕がこういう研究していることを知っているので、言っていることとやっていることが違うとバレちゃうんですよ。で、なかなか上手いなと思ったのが、結婚直後、僕は怠け者なので言われないとやらないのですよ。でも、男女平等って理屈は分かっているから、言われるとやるのですよね(笑)。

工藤:ハハハ、それは素晴らしいですよ。

本多:普通は言われてもやらない(笑)。

齋藤:彼女は自分が先に起きだして、朝食を準備していたのですが、このままじゃいけないと気が付いた。で、僕を朝食係に任命したのです(笑)。

工藤:任命(笑)。

齋藤:朝食係といっても、ご飯を炊いて味噌汁を作って、夕食係よりはるかに楽なのですけれども。

長安:朝食係は何年ですか。

齋藤:結婚してからずっとだから・・・21年くらい。

工藤:すごい。

齋藤:ただし、前の晩のおかずの余りをそのままっていうこともあるから・・・自分では作ってない(笑)。あと、お弁当作りがあるので、それは彼女の方がやって。その前に朝食を作るというルールではあるのだけれども、僕がご飯だけ炊いて、お弁当作りの時に一緒に作ってもらったおかずでカバーして(笑)。

工藤:ハハハ、それは賢い方法ですね。

齋藤:で、下の子がご飯はおにぎりが良いと言っていつの間にかおにぎり当番になったのです(笑)。で、母親の方がおかずを作っている。でも、最近子どもがおにぎりでなくて良いと言い出して。で、僕の当番が少し軽くなったのですね(笑)。弁当箱のご飯入れるところにご飯を詰めて、多少昆布とか梅干をのっけて、それだけで役割果たして。

長安:先生はお米担当なのですね。

齋藤:お弁当の下の段担当です(笑)。おかずの方は彼女が作ってくれるので。僕は自分の弁当は手間掛けてもせいぜい2段海苔弁当くらいで。子どもが小さい頃、彼女の怠け者改造作戦で上手いなと思ったのが、おむつ換えが必要な状況になると、いつの間にか彼女はちょっと遠くに行っているのです(笑)。

本多・工藤・長安:ハハハ。おかしい~。

齋藤:僕はやれと言われればやる人だけれども、自分がやっちゃうと、やらない人になっちゃうと彼女は判断して促しているのですね。いつの間にかおむつ換えは僕の当番になっていて、子どもも、下の世話は父親の役割って認識している。例えば、夜中におねしょすると必ず「パパ~!」と言って起すのです。「ママ~!」とは呼ばない(笑)。トイレで自分では拭くことができない時も、トイレから「♪仕上げはお父さん~」って(笑)。

本多・工藤・長安:ハハハ。楽しい~。

齋藤:怠け者の力を上手く引き出してもらったという感じはありますね。

本多:生きた教材で良いネタが。

工藤:やっぱり説得力があるというか、それは届くのではないでしょうか。
齋藤:大変ではあるけれども、楽しいなっていうのは子育てしてきて実感はありますね。

本多:(以前齋藤先生の研究室に)お訪ねした時に高校生のお嬢さんが研究室で勉強していたじゃないですか。普通、女の子って高校生くらいになるとお父さんとの距離を置くっていうか。でも、小さい頃からずっと仲良しだから。

齋藤:そうですね。

女性研究者が色々な場に顔を出せる環境整備を

本多:それでは私の方から、将来、学部の中も含めて群馬大学の男女共同参画ってどういう方向に進んでいったら良いでしょうか。お考えがありましたら・・・。

齋藤:やっぱり男性も女性も居て当たり前の空間が良いですよね。

前橋工科大に職員研修に男女共同参画の話をしに行ったときに、びっくりしたのが、会議室が満席でほとんどが男性でなんですよね。工学部系はこうなのだっていうのを目で見て分かって。社会全体で分野の偏りなく、男女が自分の好きな分野を選んでいけるっていうのはだいぶ長い時間のかかることですが、そういうことが自然にできる場になって欲しいし、それを後押しすることができる大学だと良いなと思っています。

工藤:トップも頭では分かっているって感じですが、工学系だと、やっぱり教員の職場って男性が多くて、女性がいるのが当たり前でない。意識啓発っておこがましいですけれども、この事業の中でそれが一番難しいかなと。人の気持ちや考えはそんな簡単に変わらないですし。

齋藤:そうですね。実際に職場で女性の比率がいきなり3分の1にでもなれば、否応無しに変わって行くのでしょうが。

工藤:そうですね。それがなかなか難しい。

齋藤:長年の蓄積ですから、働きだしてからの意識改革っていうのは、限界があるのかもしれませんね。学生たちもこういう社会の中に育ってきて、メディアを通じてジェンダーバイアスを植え付けられてきていますから。どうしても反発する学生って出てきますね。そういう学生を敵に回さず、上手くそういう考え方もあるのかぐらいまでには思ってもらえれば。いきなり考えを変えようとは思わない。ふとそう言えば大学でそんな話も聞いたなって思い出して、あぁ、そういうことだったのかと思ってくれれば、ありがたいなと。

齋藤:はじめて自治体職員の男女共同参画研修に呼ばれて話をしたときは、同僚の女性教員が講師として紹介してくださったのです。同じことでも男性が喋った方が、聞き手の男性には受け入れ易いかもしれないと。

本多:男女共同参画について、理解して実際に実践してくださっている男性を探すのが大変っていうのがありますよね。

齋藤:いつまでもそれではいけないと思うのですが、女性が話すと抵抗感を感じてしまう男性がいるってこと自体を変えていかないと。

長安:女子もいますよね。そんなに「働け、働け」って言われてもという。真っ直ぐなところもあるのだけれども、役割だってあるのではないかな。

齋藤:その「働け、働け」って言われるのに抵抗を感じるっていう人についても、多分2段階くらいに分けて考えないといけなくて。「いや、働きたい人が働けるようにしよう」と、「働きたいって思うかどうかって、今まで生きてきた中で男女で違う方向に誘導されてきてしまっているのではないか」っていう点ですよね。あとは、働くことの意味とか楽しさとかを考えると、強制するわけではないけれども、自然に選べるようになったら、ほとんどの人が「働きたい」って思うのではないかっていう気がします。労働環境が男女問わず改善されなければって話でもあるのですけれども。

工藤:自営業なんていうのはどうなのでしょうかね。桐生なんかは絹織物とかの機屋さんっていうものがありまして。問題なのは、女性は自分の意見を持たない。だから、意見は旦那さんが俺に任せておけって感じで。で、妻は色々やっているのだけれども、纏める必要がないので、旦那さんに全部お任せって感じなのが、ちょっと問題かと。

本多:群馬は、家の中では中心になったりするのですけれども、公のところは夫の方がっていう風潮が強いと感じてます。だから、群馬県は自治会長の女性割合が全国最下位で、調査が始まって以来ずっと。 実際には女性も結構動いているけど、役職は男性っていう慣習があります。

齋藤:どうしても女性の方が場を仕切る経験をする場が少ないっていうのが続いているのでしょうね。

工藤:やっぱり訓練ですかね。その場に慣れるというか。機会があれば同じようにできるのですかね。

齋藤:役職なんかを頼まれて、「ちょっとできません」って言ったときに、本人が「そういうのは男性の方が・・・」って思っていたり、言ったりしなくても、もしかしたら頼む方がそう思っていると、女性が断ったらすぐに諦めてしまうって(笑)。

長安:「いないんだよね」って言われるのですよね。

齋藤:もちろん、「そういうのは男性が・・・」っていうのを本当は思ってなくて、自分がやりたくないからそう言っちゃう人もいる訳で。

工藤:大学が男女共同参画についてこれから本腰を入れてやっていかなければならないと思われることは何かありますか。

齋藤:どうしても女性研究者のサポートがが中心になるっておっしゃっていましたよね。多分中心は女性研究者であり続けるのだろうなという気がするのですよ。それは、女性の方に負担が偏っているからだと思いますし、大学教員のような仕事って夫婦で別居している方も結構いらっしゃいますよね。で、そのときにお子さんがいると、どっちの親と同居しているかというと、多分圧倒的多数が女性だろうから、その現実があるからには女性研究者をサポートする必要っていうのは実際には高い訳ですよね。サポートをすることによって、女性研究者が色々な場に顔を出せる状況を作っていくと、その場の中にいるのが当たり前だって広がっていくでしょうから、やはり女性研究者のサポートっていうのは中心となり続ける。男女平等が現実のものとなるまでのポジティブアクションということになると思うのですけれども。

本多:最後に1つ。男女平等について、この辺がすごく変化が大きかったなと感じているところがあれば教えて欲しいのですが。私は均等法ができたことがすごく大きくて、女性が職場にいるのが当たり前の風景が今できてきたなぁと感じています。

齋藤:均等法ができたのが85年ですけれども、私が大学院で労働法の研究を始めたのが、82年で、最初から男女平等の研究をしようと思っていた訳ではなく具体的に言うと1990年なのですけれども、1つのきっかけは、ILOが夜間労働に関する新しい条約を作ったのですね。男女共通規制の考え方を打ち出し、夜間労働が健康や家庭生活の両立に悪影響を与えるのは男女共通の問題だという視点が国際的に出てきた。もう1つのきっかけは、大学に着任したときに、憲法の授業以外に、もう1つ講義科目を前後期やって欲しいのだけれども、中身は任せると言われて。じゃあ、労働法って考えたのですね。前期に労働基準法の話をして、後期に労働組合法で半期15回をもたせるのも辛いなと思って(笑)。まず、男女平等の話から始めようと、それを授業のために調べている内に、15回中10回くらい男女平等の話になって(笑)。そのこともきっかけになって研究を進めることになったのですが。
でも、研究をしていると本当に均等法ができてから進歩したのだろうかって話をよくするのですよ。悪い意味では、男性も非正規労働の比率が増えてきているっていうのがありますよね。

本多:あれは派遣法が悪かったのでは・・・。

齋藤:それは大きいですよね。均等法と同じ年に派遣法が作られているというのが、ひとつ象徴的な出来事なのですけれども。

平等っていうのは同じであれば良いということではなくて、等しく権利が保障されることに意味があるのだと。両方とも権利があるからこそ、男女平等っていう意味がある。労働をめぐる現状っていうは、本当に男女平等になったのだろうかと。女性も男性と等しく過労死するようになってきて、それで男女平等が実現したとは多分喜べない。そういう意味で言うと、男女平等が本当に進展したと言えるだろうかという疑問はやっぱりありますね。

齋藤:あとは85年の女性差別撤廃条約批准以降ですけれども、その次での段階での90年代に入ってからの学習指導要領の改訂で家庭科の男女必修化が行われました。その前は『男は仕事、女は家庭』っていうのを学校教育が教え込んでいた。厳密に言えば、技術だから言わば男は大工仕事、女は家庭科で炊事、洗濯、育児。自分が中学生の頃には当たり前だった。今思うと、よくそれが当たり前だったなと思えるようになりますね。だから、中学校段階から家庭科を男女共修で学んできている世代の人達にとってはそれが当たり前になってきているっていうのは、その前の世代と大きな違いかもしれませんね。

長安:イクメンって言われる世代の人は家庭科をやってきている。

齋藤:男女混合名簿もやってみれば当たり前。そうなってしまえば、明らかにおかしいことが当たり前として通用しているのだなっていうのがありますね、様々な点で。

本多・工藤・長安:本日はありがとうございました。