本多:いつも最初はそれぞれの学部における男女共同参画の状況について、まずお話を聞かせていただいていますが、この度、医学系研究科で男女共同参画推進委員会を発足していただける見込みということで、独自の委員会のことも含めて男女共同参画の現状についてお話しいただけますか。
石崎:現状といたしましては、やはり女性研究者の上位職への登用が他の部局に比べて少し見劣りするということで、もっと教授・准教授・講師等への登用を進めていきたいと考えております。やはり女性研究者が仕事に取り組めるような環境づくりということが、一番大切かと思います。ライフイベント、妊娠、出産、育児のときにもキャリアが途切れないような環境をつくっていきたいと考えています。具体的には現状をより詳細に把握し、どのように改善していくかということを目指して、委員会を立ち上げます。メンバーは、研究科長の私をはじめ、総勢13名です。神経内科の副研究科長(パートナーも神経内科医)、そして、ダイバーシティに興味をお持ちの医学哲学・倫理学、女性の研究者の占める割合が多い循環器内科学、病理学、麻酔学からそれぞれ教授1名、生体調節研究所からは副所長。女性は5名で、総合医療学と医療人能力開発センターの講師2名、生体調節研究所に女性として初めて着任された教授1名、今後活躍が期待される准教授1名、重粒子線医学研究センターから助教1名。そして、昭和地区総務課長も加わりました。
本多:今お話をお伺いすると、本当に魅力的な方がそれぞれこの委員会のメンバーになってくださっていると感じます。ただ、皆さん大変お忙しいでしょうから、集まって委員会を開くことが難しいのではないですか。
石崎:メール審議が中心になるかと思います。どうしても必要なときは、お互いに顔を合わせてということを考えております。
本多:最初にお話がありましたように、まずは現状の共通認識を持っていただいた上で、そこから何をしていくかを考えていただけるかなと。大いに期待しております。
石崎:(インタビュー当時)いくつか教授選が走っているのですけれども、女性の応募者もいるということですので、そのような方を採用できればいいと思っています。
本多:群馬大学の医学系では、生体調節研究所の林朗子先生が初の女性教授ということですけれども、医学部と病院の方では女性の教授は、どなたもいらっしゃらなかったのですね。
石崎:そうですね。やはり、医学系の周りの大学を見渡しても、女性の教授がいないところは、ほとんどないのですよね。友人などに話をしますと、「えっ、いないの」と呆れられてしまうので、少し恥ずかしいなとは思っています。
本多:では、他大学ですともう誕生していると。
石崎:ええ、結構いますね。外科の教授でも女性がいらっしゃる大学があるので。
本多:何か理由があったのでしょうか。群馬には。
工藤:少し興味がありますね。
石崎:分からないですね、そこは。
長安:私学の方が早かったのですかね。女性の教授が生まれたのは。
石崎:そうかもしれないですね。でも、公立でも今、全国医学部長病院長会議というものに出ているのですけれども、横浜市立大学は確か女性の方が出ていらっしゃいます。
長安:トップに立っていらっしゃる方が女性ということですか。
石崎:ええ、そうですね。
本多:話は変わりますが、群馬県は県医師会の理事も今まで女性の方がいらっしゃらないと聞いています。全国的には他県の医師会は女性の理事の方がどんどん誕生して、日本医師会でも勧めているのですけれども、郡・市の医師会ですと女性理事もいらっしゃるのですが、県の医師会では男性ばかりだと・・・。何か群馬県の風土というものがあるのですかね。
石崎:私も高校まで宮城県で。その当時、公立高校の仙台一高という高校だったのですけれども男女別学だったのです。でも、ついに5~6年前かな、共学になったのです。そのような意味から言うと、群馬県、北関東はそうですかね。栃木県、埼玉県もそうですね。
本多:確かに、公立高校の別学率全国1位は群馬県です。
石崎:そのようなことが少しは関係しているのですかね。
工藤:でも、先生方のご出身は群馬とは限らないですよね。全国的ですよね。
石崎:そうですね。
工藤:不思議ですね。
工藤:次に先生のプライベートについて少しお伺いさせて下さい。お連れ合い様も医師でいらっしゃると伺いました。きっとおうちでも男女共同参画がかなり進んでおられるのではないかと思うのですけれども。
石崎:実は私の母親も高校教師をしていました。母親が働いていた時代は『女性は家庭にいるべきだ』というような感じで、職業を持っていると『職業婦人』と呼ばれていた時代で。それで随分母も肩身の狭い思いをしたのではないかと思います。でも、僕はそのような母親に育てられたので、女性が職業を持つことは当然のことだと思っていました。子供の頃はよく夏休みや冬休みは母親が勤めている高校に連れて行かれて、そこで自習をしていたような育てられ方をしたので、全然女性が働くことに対しては抵抗がなかったのです。ですから、結婚するときもやはり働いている女性がいいなと思って今の家内と結婚しました。
工藤:ということは、家庭のいろいろなことをおふたりで分担されている感じですか。
石崎:そうですね。僕としては協力したつもりで(笑)。
本多・工藤:そうですか(笑)。
石崎:子どもふたりは保育園に預けていたのですけれども、送るときは私が行って、子どもが熱を出したり怪我したりしたときは、私が病院に連れて行ったり家で面倒を見たりすることもありました。土曜日は子どもを研究室に連れて行くことも多かったです。あと、なるべく土日は私が料理を作るようにしていたのですけれども。
工藤:わぁ!すごい!
石崎:あまりにもレパートリーが少ないので、結構子どもたちからも不平が多かったです(笑)。その点、この間来てもらった藤巻 高光(脳神経外科教授)さんは、レパートリーがもっと多くて、見習わなければならないなと(笑)。
本多:ご講演の中でも「お弁当作りは夫の役割」とおっしゃって、カラフルなお弁当を用意されていましたね。
工藤:わぁ~すごいですね。
石崎:彼に比べると男女共同参画の点では、だいぶ出遅れたなと思いました。もう1つ出遅れたなと思った点は、藤巻さんは留学をアメリカにされたときに、お連れ合いも留学先を見付けて。確か、ベビーシッターを見付けて、お2人で留学されたというお話でした。私の場合はロンドンに留学したのですけれども、そのとき妻は丸っきり子育てをしていたのです。だから、その点では少しすまないことをしたと思っています。
工藤:結局はご夫婦それぞれの一番いい形でなさるので、そこはそれぞれで違ってもいいのかもしれませんよ。先生、よくなさっておられますから。
長安:胸を張っていいのではないですか。
石崎:そうですか。
工藤:ええ、そう思います。すみません、立ち入ったことをお伺いしてしまって。
石崎:いえいえ。
本多:最後に、群馬大学全体として、男女共同参画のあり方や進み方について感じていらっしゃることをお願いします。
石崎:それは、もちろん同じ能力・同じ業績であれば男女は平等であるべきです。何かライフイベントがあったときに、女性が不利にならないような環境を、群馬大学では作ってあげるべきではないかと思っています。あと、教授会で、「男女共同参画推進委員会を発足いたします」と言ったら、ある先生が手を挙げて、「今の時代、『男女共同参画』というのは古い言葉ではないか。『ダイバーシティ』という言葉の方が、いいのではないか」というご指摘がありましたので、「それは、今度、荒牧の本部で、そのような意見があったことは、お伝えします」と申し上げました。といいますのは、今、LGBTの方の…。
長安:ガイドラインですね。
石崎:そうですね。あのようなこともありますので、『男女』と言うと、LGBTの人たちは少し抵抗があるのではないかと。
工藤:何か学長もそのようなお名前を…。
長安:委員会自体の名称を行く行くはダイバーにした方がいいよねということは平塚学長もおっしゃっていました。
石崎:ああ、そうですか。
本多:ただ一方で、法律で「女性活躍推進法」などがあって。
石崎:ああ、難しいですね。
本多:そことの兼ね合い的な部分ですね。
長安:世界の指標でいくと女性の活躍は144か国中114位なのです。だから、まだまだ女性の活躍を推進する必要がある。
本多:女性の参画では、日本は順位を上げているのではなくて、逆に世界での順位は他の国に抜かれて年々下げていまする。
石崎:ああ、そうなのですか。
長安:どんどん下がっている。抜かれてしまって。
石崎:前にもお話ししたかもしれませんけれども、私がロンドンに留学していたとき、アメリカから来ていた女性研究者が、その後アメリカに帰って性転換して、男性として今スタンフォードの教授をしているのです。その人の話を聞くとアメリカでもまだまだ女性の研究者がプロフェッサーになるのはすごく難しいと言っていました。
本多:この間の藤巻先生ご夫妻のお話の中でも、やはりアメリカでも差はあるとおっしゃっていました。男性の方が上位職にはなりやすいと。
石崎:そのようですね。
長安:女性の活躍のための研究資金のようなものが配分されていますね、アメリカも。EUもそうですけれども。まだまだ足りないということで。日本もそれを真似して、女性研究者支援のこのような取り組みが始まったのだと思います。
本多:これから重点学部ということで意欲的に進めていただけるかと思いますと、本当にうれしく思っております。
長安:本当に若い女性の先生方が増えましたね。
石崎:そうですね。
長安:とても女性の助教の方の層が厚くなりましたし、講師の方の層も厚くなって。この人たちがきっとライフイベントにもかぶってくるのですね。
石崎:そうですね。教員に限らず事務系でも産休・育休などを取っている人がいましたので、だいぶそのような意識は変わってきているのではないですかね。
工藤:理工でも同じように若い先生が増えました。
石崎:男子でも?
工藤:若い男性の割合は女性と比べて少ないですね、やはり。ですけれども、女性の若い教員が確実に増えているので、いい方向に行っているのではないかと思っています。
長安:これからきっとライフイベントラッシュが来ますね。いつか近いうちに。
工藤:そうですね。皆さんそのようなことになると。
石崎:そもそも、今、医学系研究科で少ない理由は元々、例えば私の同級生100人のうち、女性は7人しかいなかったのです。今、群大の医学部だと半分まではいかないけれども、4割ぐらいは女性なので。これからどんどん女性研究者で、上位職、ステップアップする方も増えてくるのではないかと思っています。
本多:そのようなことを考えても、先ほどおっしゃっていた環境を整備しておくことは大事ですね。今からやはりしておかないと。
石崎:それには、男性側の意識をやはり変えなければ駄目ですね。
工藤:それが一番難しいと思います。意識啓発ということが。でも、何度も何度もしつこく、手を変え品を変えでやったら、嫌でもどこかに残るかもしれないので。粘り強くやっていくしかないですかね。
本多:環境整備と意識啓発を両輪とする感じで、医学系の男女共同参画を推進していただきたいですね。
工藤・長安:ありがとうございました。
石崎:今後ともよろしくお願いいたします。