嶋田:お忙しいところをありがとうございます。本日はいくつかお伺いできればと思っております。
長安:まず、保健学科の男女共同参画の現状について。保健学科は女性が活躍している学部としてある意味、群大の柱だと思っているのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
横山:保健学科は女性教員が半数を占めていて、今後も看護学科が中心となるので、人数の増減はさほどないと思います。ですので、人数だけを見れば目標はクリアしていますが、逆に言うと現状に甘えているというか、意識していない。つまり、保健学科は性別や状況に関係なく同様に仕事をこなすことが当然のようになっていますが、何でも平等なのが本当にそれでいいのかと改めて考えさせられます。
長安:子育て中の方もいれば、独身でバリバリやっている方もいらっしゃるので、バランスを取るのが難しい面もありますよね。
横山:そうですね。ですので、女性教員の人数が少なければ、周囲も意識するきっかけなると思いますが、保健学科のように女性が多いと、そういった配慮ができないといいますか、未婚既婚に関係なく一緒にやって当然でしょうという雰囲気があるかなと思っていて。産休や育休に関しては、きちんと取れるような仕組みはありますよね?
嶋田:あります。現在は大学側の負担で支出しています。以前は、やむを得ず研究科長経費で雇っていました。
横山:今は定員削減で、教員の負担が増えていて休みが非常に取り難い。産休や育休の制度はあるけれども、取りたくても取り難いという状況が出てきていますね。現状、各教員が自分しかできない仕事を抱えてしまっているので、その人が抜けると替わりができない。更に教員全体の人数も減って大変厳しい。少なくとも抜けた分の人員を補充しないと、これ以上の仕事量を現在の人員でこなすのは無理ですね。だから、そこを理解してもらわないと。ただ、休みは取っていいけれど、後は自分たちでやってくださいと言われてしまうと組織としても困るし、休みを取る方もやはり遠慮しますよね。せっかく休暇を取れる仕組みがあるにも関わらず、それがきちんと使えないようでは困りますね。
長安:群大は産休育休時の代替教員の雇用は可能ですが、すべての仕事を代わりにお願いすることは難しいようです。
横山:一人ひとりの教員の負担も増えているので、休んだ先生の分がある程度はカバーできるような仕組みは作って欲しい。産休育休はどのぐらいの期間が取れるのですか?
長安: 産前休暇が6週間、産後休暇が8週間、育児休業が3歳に達する日(3歳未満)です。
横山:期間的には長く取れるので、その間、代替の方をしっかり入れて、業務がきちんと回るように仕組みを作りができると組織としてもやり易いですよね。
嶋田:保健学科全体だと女性教員が半数で、特に看護は非常に多い。でも、他の専攻を見ると、教授は圧倒的に男性が多いので、各専攻だとそれほど女性が多いわけでもない。
横山:この表を見ると看護に限らず検査やリハビリもそうですが、講師や助教クラスは非常に女性が多い。ところが、准教授以上になると男性が多いのは、若い先生が上位職にアプライできる機会が少ないからだと思います。はっきり言って教授には医系教員が多い状況になってしまっている。そのあたりを改善する必要があると思います。
長安:検査やリハビリの分野でも女性が上位職になって欲しいと思います。
横山:そのとおりですね。ただ、検査やリハビリは大学院ができて間もないので、博士を持っている人が少ない。だから、人数的には女性もたくさんいますが、教育のできる人材が乏しいですね。
長安:みなさん病院等の臨床現場に出ますものね。
横山:今後は臨床検査技師などで教育もできる人がアプライしてくれれば、もう少し女性の教員も増えると思います。今は公募しても、なかなか応募してもらえない。臨床検査技師などで臨床の現場を経験して、大学院で博士号を取得した卒業生が何年後には上位職になってくれればと期待しています。
嶋田:そうそう。特に看護は、現場に出てから戻ってくる教員が多いので、他学部とは様子がだいぶ違いますね。
横山:大学としては、仕事と研究を両立できる仕組みを作らないと。特に保健学科は、社会人の大学院生が非常に多いので。
長安:リカレント教育ですか。
横山:そうです。そのような方に大学としてできることは、研究ができる仕組みや支援を作ることですよね。それが将来的には教育職への道にも広がると思います。また、研究と職場を切り離してしまうと大変になってしまうので、職場の理解というのか、ある程度職場と一緒に研究できるような仕組み作りが必要なのだろうと。特にリハビリは、仕事と研究が両立できるよう配慮してもらえているようです。また、研究も職場の特性を活かせるので、それは良いことだと思います。
嶋田:保健学科の女性教員や女子学生に期待することはありますか。
横山:私はずっと医師の世界にいて、男性の視点でしか見られないので、女性の視点を入れることが大切ですよね。保健学科、特に看護は女性の教員と学生が多いので、女性の観点や視点を汲み上げることは大変重要だと思います。
長安:LGBTの方も含めて今までにない多様な視点が求められていますね。
嶋田:企業も幹部に女性を数名入れただけで、随分と発想が変わって良いようです。だから、会議もある一定数の女性が入ることは良いことだと思います。
横山:そうですね。保健学科は幸いなことに看護があるので、そのような意味では意見を聞きやすいですね。
長安:それでは次に、横山先生ご自身のご家庭での男女共同参画について。
横山:これはちょっとね(笑)。うちは、妻が大学卒業と同時に結婚して、専業主婦になりました。ですので、家庭のことは任せっきりで。今思うと、本当はもっとできたのだろうなと思います。
嶋田:でも、その時代はそれほど珍しいことでもなかったですよね。
横山:自分は仕事があるからと言って、任せっきりにしていたところが大いにありました。今の若い人、特に共働きの人を見ると、すごいなと思います。
嶋田:共稼ぎで家事も分担している方もいらっしゃいますね。
横山:そのような意味では、少し恥ずかしいですが、十分やっていなかったかなと…。後悔ではないけれども。
嶋田:いやいや、これからですよ(笑)。
横山:実は、娘が今年から研修医になりまして。将来、娘が結婚や出産を迎えたときにどうなるのかという不安が、本人以上に妻がありまして。娘は仕事も一生懸命やりたいけど、出産育児でブランクを作ることに不安もあるし。私の場合は、それを妻が全部やってくれたのだけれども、娘の場合は恐らくそうはならないと思うので、誰がフォローすればいいのかと。
長安:医師のパートナーは医師の方が多いので、どちらが仕事を削るかというような話になりますね。今は、育休を取る男性が増えてきていますが、やはり上司にそのことを言い出し難いようです。
嶋田:上司が実際に育休を取ったことがあれば、部下も取りやすいでしょうけれども。
横山:今のNHKの朝ドラが昭和40年頃の話ですが、現代と悩みは一緒ですね。結局は、女性の仕事と子育ての両立の難しさだと思います。仕事で子どもを自分で見られないことに対するジレンマが当然出てきますね。そのあたりが非常に難しいなと思って。特に、男性の立場から言うと、あのあたりが自分の問題になかなかなり難くて。妻からは次は娘のときはどうするのだと怒られます(笑)。
嶋田:出産して1人目は何とかなったけれども、2人目が産まれて両立が難しくなったので辞めてしまった先生も何人かいます。実際にそのような先生のお話を伺うと、結構、女性は女性に厳しいのです。また、忙しいので現状を上司の先生と話す機会がないようです。
横山:最初の話に戻りますが、保健学科は女性が多いので、皆が普通に働いて当たり前というような雰囲気が逆にできてしまっているので、その中で苦労している先生も当然いて、その状況を外に出しにくい。それを上手く汲んであげてフォローしてあげないと、結局辞めてしまう。
長安:最後になりますが、群馬大学の今後の男女共同参画について、何かビジョンがございましたらお願いします。
横山:大学全体としては、もっと人数を増やすべくいろいろ努力をする必要がありますね。
嶋田:特に、医学系と工学系の女性上位職がいないということをJSTから指摘されています。何かアイデアはございませんか。
横山:なぜなのだろう。群大は特に少ないですね。
嶋田:(医学系の女性の教授が)ゼロですからね。
横山:他の大学はもう少し居ますよね。
嶋田:ひとつは、やはり応募する女性が少ない。学外から応募する女性が少ない状況が何十年も続いているのは、どこか問題があると私は思っています。ですので、学内の先生を育てて、上位職に上げるということを考えていかなければならない。実際に優秀な女性の先生を上位職に上げるかとか、何かインセンティブを付けられればと思っています。
横山:昔は女性医師自体が少なかったですが、今では医師の半数近くが女性になりました。また、工学部も女性が増えているので、その方々が研究を継続できる仕組みを作って、上位職に繋げていくシステムが必要ですね。今までの男性社会だと、男性と同様に働いて当然というやり方では、家庭との両立はできない。そうではなくて、家庭を持ちながら、研究もして、教員にもなれる仕組みを作くらないと人材も育ちません。組織全体として、女性も引き上げる仕組み作りをしないと。ただ自分が頑張っているから自分と同じようにやってくれというのは、今は通用しないです。
嶋田:全体の仕組みということですが、具体的に何かアイデアはありますか。
横山:研究に関しては、研究の時間を作ってあげたい。そのためには、教育などの負担をある程度減らすしかないと思います。ただ、そこが悩ましいところで、専門職を養成するので、時間数が決められていて、そこはなかなか削れないです。でも、何とかしてある程度負担が減れば。例えば、週1日なりは、研究に費やせるような時間を作れる。これは性別にかかわらずですが、若い教員の方たちが上位職に上がっていくためにも、研究の時間を取れる仕組みを考えていかなければいけない。
嶋田:もうひとつは、子育てなどで一定の期間、論文が出ない時期がどうしてもできてしまう。だから、共同研究をして、とにかくファーストでなくてもいいから論文に名前を入れてもらって、研究業績を繋いでいく。そうしないと、次にまた研究費が当たらないという恐ろしい悪い循環に入ってしまうので。
長安:負のスパイラルに入ってしまう。
嶋田:あれが一番怖いので共同研究を上手にやる。多分、女性はマネジメント経験も少ないし、研究を広げることにあまり頭が向かない。だから、若いときからチームで研究をする。そのときに、チームリーダーになって、まとめて研究をコンタクトできる。そのような経験も必要ですね。今、男女共同参画推進室で共同研究促進事業をやっていますが、個人的にはとても良いと思っています。
横山:医学科は組織として大きいので、皆で分担するやり方をずっと続けています。そうすれば、自分の業績にもなるし、色々なことに対して理解も深まる。保健学科は皆ひとりでやっている状況です。専門が違うのもありますが、なかなか教員間でやりとりをするという機会が少ないからでしょう。「もっとみんなで一緒にやって、その人を育てるという仕組みがあってもいいのではないか」と他の先生もおっしゃっていました。
嶋田:ただ、業績はそこそこだけれども、いつまでも分担者でリーダーになれないのも問題。特に、内科系などは人数が多いからいいですが、私の専門である寄生虫領域は、各大学に数人というような世界なので、学会全体で若手を育てる取組をしています。例えば、学会で奨励賞を作ったり、学会発表で優秀な若手の方を上の方の人がピックアップしてアドバイスしたり。
長安:素晴らしいですね。
嶋田:そうしないと次の世代がいなくなってしまう。だから、組織として若手への支援を早く始めれば人も育つのかなというのはあります。
長安:そのような経験をした女性たちが、職位が上がっていく中で、後輩たちをまた引き上げるというのかな。
横山:だから、医学科も女性教授が生まれてくれば、それが下の人には目標になると思うのです。今のゼロというのは、かなり痛い状況ですね。
長安:今、全国の国立大学の医学系を調べていて、やはり数名は(女性教授が)います。
横山:ですよね。
嶋田:ゼロというのはね…。
長安:名古屋大学は12人でしたよ。
嶋田:えっ、本当ですか。
長安:名古屋大は学長が力を入れていて、アピール上手です。東大でも京大でもなく、名古屋大学を選んでもらうために、大変な努力をされているのです。『世界の女性に優しい大学トップ10』に入ったりしたので。要するに、群大に優秀な先生に来て欲しいと思っても、魅力のある方に行ってしまいます。やはり、学内の先生を育てるというシステムを作らなければ。それで、学内から上位職に繋げるようにしなければ難しいのかな。
横山:全国で女性教授がゼロというところは他にありますか。
長安:群大と、今、調べたところですともう2校ぐらいですね。
横山:少ないですね。
長安:最後に、先生から何かございましたら。
横山:やはり最初にお話ししたのですが、保健学科は人数が女性の教員が多いだけに、それに甘えていたではないけれども、なかなかそのような意識が、僕たちは持ちにくかったので、改めて、今回このようなお話を受けたときに、もっとやはり、男性教員を含めて保健学科全体で、意識する必要がある。やはり今までずっと、「うちは人数多いんだからいいんだよ」というようなところがあったので。
嶋田:安泰だねというような。
横山:でも、そうではなくて、本当は研究したいけれど、時間が取れないとか、産休や育休などの仕組みがありながら、それを使い切れていないなど、そのような先生たちを支援していければなと思いますね。やはり産休や育休が、気兼ねなく取れるような仕組みは最低限、作ってもらいたいですね。
嶋田:本日はありがとうございました。